消費されないやつ=売れませんです

晴れた。機嫌よくラボに向う。ラボは冬になると昼間はいつも暖房が効いていてあったかいのだ。ここのラボのお隣さん(左隣り)はレコーディング・スタジオ。夜になると時々歌姫の方がトイレの前で「ン、ン、フ、ハー」なんて発声練習している声が聞こえたり、ギタリスト等バンドの人々、そしてたぶん録音技師の人々などが建物の入口の外辺りで風に吹かれたりしながらシブくタバコなどを吸っていたりする。右隣りのお部屋では、ジュエリーデザイナーのおじさん、陶芸家のおばさんなどが作業しているらしい。夜になってもずっと電気が灯っている。

この他、この建物には絵描きさんとか、写真家さんとか、演劇の先生とかがいるらしい。その中で一番何をしているのか分からないのがこのラボであり、「何を作ってるの?」なんてご近所さんに聞かれるとちょっと困惑する。たぶん、建物の中にいる80%くらいの人が、作ったらすぐ売れるタイプのものを製作している。看板やさんとか、手作り家具やさんなんかもいる。でも、たぶん10%くらいの人は、作ってもすぐに誰かが「あら、すてき。これ、クリスマスプレゼントに最適」などと気楽に買ってくれそうにないものを作っている。んじゃないかな、と私は勝手に想像している。

どうして買い手がつきそうにないもの、とっても買いにくいものばかり作ってしまうのだろうと頭を捻るのだけれど、どうやらよくよく考えてみると、作ったら誰かがすぐに買いそうなものには興味がないみたいだ。すぐには役にたたないものが、たぶん好きなのだ。何の役に立つのか分からないような、回答のないパズルみたいなのがどうも好きなのだ。すぐには答えが出ないけれど、ある日突然パアっとその答えと一緒に世界がぺらりと遮光シートを一枚剥がすようなやつが好きなのだ。消費されないやつ。所有されないやつ。終わらないやつ。など。これ、貧乏性ですな、一種の。

夕方、ちょっと用事があってラッコとコスコなどという所にゆく。これは日本ではコストコと呼ばれているものらしいのだけれど、こちらでは通常コスコと呼ばれている。なんでだろ。
私はこの場所が大嫌いなのだけれど、時々、自分が嫌いなものは何なのかを思いだすために、出掛けたりする。巨大な倉庫がそのまま店舗になった、北米大量消費社会の剥き出し図みたいな場所。ここに行くと、地球人の生態調査をしている宇宙人の気分になる。蛍光灯のうら白い光が、剥き出しの天井を照らす。告白すると、この大量大型大箱の商品製品売り物の森を歩き回っていると、脳内に何がしかの化学物質がシュワっと出る感じあり。アブナい。

夜、V図書館から借りて来た映画『サンデイ・ドライブ』をDVDで観る。

サンデイドライブ [DVD]

サンデイドライブ [DVD]

日本だなあ、この曖昧な、会話と身振り、などとユルく楽しむ。ビデオ屋、という設定も、遠くなったなあなどとちょっとノスタルジーに耽りつつ。