私が好きな私

本日も快晴。でも、そんなに暑くない。トマトがやたらに葉っぱを伸ばし、次々と花をつけている。植え替えてあげようかな、ちょっと鉢が窮屈そうになってきた。小松菜もうまく根付いたようなので、折をみて間引きしてやらないとね。ミントはもう最初の5倍くらいの嵩に増えている。ミントは摘んであげるとどんどん元気になるらしいので、ミントを大量に使う料理を考えて、近いうちに古い葉を摘み取って、ちょっとすっきりさせてあげたい。

昨晩は、タップで怠け者の足の筋肉の目を覚まし、鼻の頭に汗を乗っけたままで、映画館へ。V市の夏恒例の日系フェスティバル「パウエル祭」の一環で、日本映画の上映会があったのだ。プログラムのタイトルは「キバツシネマ」。ちょっと変テコなのやとんがった映画を集めたということらしい。いつもは座席がら空きのシネマテークなのだが、お、すごい。長蛇の列ができている。並ぶこと15分。上映時間を過ぎてやっと中に入れた。超満員。日本映画なかなかの人気である。

さて、一本目は『転々』。『時効警察』のオダギリ・ジョー×三木聡監督コンビによる、東京をただぶらぶら歩くシーンがやたらに多い映画。こういう、ただただどこまでも歩いて行くとか、何にも起きそうにないけどちょっとだけ何かが起きるかも...という設定は好き。別に何がどうというような映画史に残るような名作とかでは全然ないけれど、シュールでくだらない会話も面白いし、ぼーっと楽しめた。東京の街をちょっとノスタルジーな目線で見る。こういう変な楽しさは、遠くにいて初めて味わえるのかもしれないなあ、なんて思いながら。会場に日本人(日系人)多し。どうやらそこここにノスタルジー目線発生中。ちなみに、三上氏の細かいギャグは、カナダ人にもものすごくウケてました。

さて、二本目は草間彌生を追ったドキュメンタリー『私大好き』(英語タイトル "I love Me")。これが素晴しかった。映画の出来が素晴しいというのではなくて、草間彌生という人物自体が、素晴しかった。タイトルの通り、「わたしって天才」とか「自分の作るものにしか興味ない」とか I LOVE ME な発言を連発する彌生さんなのだけれど、これがチっとも嫌味に聞こえない。どうしてなんだろう、と映画のあいだ中考えていたんだけど、つまり草間彌生は本物だってことなんだな。彼女が言うように彼女は天才だし、彼女はそういい切って全く後ろめたくないだけのことを過去も現在も(未来も)やっている人だし、彼女の作品は彌生さんが完成した自分自身の作品を見て「あら、ほんとにこれ素敵ねえ...」と溜息を漏らすだけの「素敵さ」を確かに勝ち取っているのだもの。

草間彌生っていう人は、なんだか時空の真ん中に仁王立ちになっているような人だ。その時空はあの世とこの世の接続点と言ってもいいし、まさに「現在」という一点であると言ってもいい。それを美術語で翻訳すると「前衛」という場所になるのかもしれない。とにかく、誰が何と言おうと、あの人はその場所から頑として動かない。もちろんどんどんと高みへと昇って行くので、移動しているとも言えるのだけれど、そのどの地点でも、彼女はそのド真ん中にものすごい気迫で立っている。その場所に立ち続けること、がどれほど大変なことかを彼女は知っている。闘っている。勝利している。決して何かに押されて、その場から揺らいだり、撤退することがない。押されたら押し戻す。もっともっと大きな力で。

だから、彼女が I love Me という時の、"I"は、たぶん厳密に言うと"Me"とイコールではない。"Me"はいつも"I"を驚かせてくれる、もっと上へ、もっと先へ、もっと遥か彼方へと先回りして "I"を待っている永遠の旅人なのだ。

「あら、これステキね〜。ほんとに、ステキ」と自分の作品と対面して思わず彌生さんが漏らすこの「ステキ」がすごく「ステキ」だった。自分の作品をステキだと自分で思わなかったら、誰がステキだと思うのだろう。そのことを彼女は教えてくれる。ステキな作品、"I"が思わず「ステキ!」と叫ぶ世界を目指して行こう。