バージョンアップの迷宮に沈む

本日も晴天。でも全然暑くない。窓を開ければ爽やかな風が吹き込んで来る。ただしUV度はかなり高そう。外を眺めてるだけで目がチカチカする。今日は久々にスタジオに籠ってサウンド仕事。とはいえ、現在シーケンスソフトのアップデートに向けての環境整備中。何しろ冬眠期間がものすごく長かったので、私が地の底で眠っている間に世の中の音声編集ソフトは進化を遂げ、どんどんバージョンアップしてゆき、一方で パソコンのOSもものすごい速度でバージョンアップしてゆき...というこの2つのどちらからも取り残された状態のままの私とパソコンとが、今じっと見つめ合って困り切っているのである。

すごいよ。冬眠から目覚めたこの感じは、お土産のフタを開ける前の浦島太郎の感じ。自分だけが後に取り残され、周囲のものはすべて進化しているという寂しさ。眠りに入る前のパソコンのオペレーションシステムは懐かしのMac OS9。しかも、F犬街で買ったMacなので、なんとオランダ語のOSがインストールされている。せめて英語にして欲しかったが、その当時、F犬街で英語OS搭載のパソコンを買うのは、かなり不可能に近かったんだ。OS9って、こうちょこっと動かしてみるとね、あ、やっぱり。ちょくちょくフリーズするよ。懐かしのフリーズ。なんだか過去にタイムトラベルしたような気分でレトロなディスプレーの絵柄をついぼんやり眺めてしまう。このパソコンに乗ってるサウンド・シーケンスソフトはProTools LE。このバージョンもかなり古いが、さすがにこのソフトは英語なので、まだしもメニューが読めるのが嬉しい。

思えば、かなり以前に、このパソコンにOS9の日本語バージョンをインストールし直そうと試みたことがあった。でも、その時点では、OSのバージョンの関係で、なぜかうまくできなかった。「x.x.xよりも上のバージョンのOSでないと、上書きできません」とかそんなメッセージが出たのを覚えてる。(そして、x.x.xよりも上のバージョンのOSというのはその当時まだ発売されていなかった。どん詰まり。その後OSX時代に入り、新たに日本語OS9を買ってインストールする気力は失せてしまった)それならいっそOSXにしてやれ、と前から狙っていたのだが、OS9対応のGRM-Toolsなんていうエフェクトプラグインを大枚を出して買った後でもあり、まだGRM-ToolsのOSX版が出てないとかいう時代だったので、バージョンとバージョンの間にサンドイッチになって身動きが取れずぐずぐずしてるうちに、いろんな事情が重なって冬眠状態に入ってしまったのだった。

そして、目を覚ましてみれば、そこには最新のOSXはもうインストールできない古すぎる遅すぎるPowerMac G4と、古くなったProTools LEと、オランダ語OS9が埃をかぶってシュンっと座っており、向うも完全なる浦島太郎状態。これでは二人浦島状態で、完全に世の中から取り残されてしまう、と双方とも途方に暮れたのであった。

とにかく、音に触ってないと感覚がどんどん鈍るので、とりあえずその昔のSF映画みたいな画面のパソコンで、パフォーマンスのためのちょっとしたサウンドとかはなんとか作りながら今日まで凌いで来たのだが。

フと思いついて、そうだ、とにかくラップトップに新しいProTools LEをインストールすれば、どこでも仕事ができるじゃん、と今度はそっちの方をいろいろ調べてみた。すると!!!

ProTools の最新バージョンはProTools8。しかし、ProTools8はOS10.5.5以降でないと動かないのに私のMacBook Proは10.4.11。ああっ、ここでも八方塞がりか、してやられたり...。

と、王手とチェックメイトが一緒に来たような気分で喉を詰まらせながら、いっそPCのOSをアップデートしちゃおうかとすら思ったけど、それをやると他のグラフィックソフトウェアで動かないのがでてきちゃうことが判明。ああ、無情。もう後ろにも前にも進めません。降参。

なんだか、疲れて来た。いわゆるテクノロジーに頼って仕事している都合上、避けて通れないことなんだけど、さ。人類はパソコンおよびパソコンソフトのバージョンアップに思いっきり踊らされてないか? ああ、現代社会というものはつかの間であっても人間の「冬眠」などというものを許してくれないものなのだなあ、と痛感し、なんだかエネルギーがしゅううっと音をたてて漏れて行くようなこの虚脱感。はあ。

ええい。

パソコンなんてその辺にかなぐり捨てて、自分の身一つでできることだけをやってゆきたい気分に襲われる夕暮れ。
こんな日は、じっと空を見る。
明日はどっちだ。昨日はいずこ。