もはや通、あるいは細胞レベルの恋

さて。いよいよ東京も最終日。最後の最後の、もう逆さにしてもこれ以上何も出ませんっていうギリギリのところでのイベントは、なんと歌舞伎座さよなら公演。ははん。またピヨコの趣味だな、これは。見たかったんでしょ、歌舞伎。と、問いつめると「そーだよーん、見たいんだよーん、海老蔵だよーん」と素直っていうか、もう完全に開き直ってます、この伝統芸能オタクピヨコめ。

しかしながら、日本人でも公演時間5時間の間ずっと大人しく座ってるのはかなり難しいのではっていう長丁場の歌舞伎公演。果たしてとーちゃんかーちゃん&息子はどこまで楽しめるのか、楽しめないのか、居眠りしちゃうのか、お尻が痛いのか...などと、ちょっぴり心配なピヨコ。でもまあ、日本芸能の底力、きっとカンドーの渦が巻き起こるはず、と朝からソワソワ、ワクワクしているピヨコ。よしっ。身を清めてイザ出陣。

とにかく長丁場である。まずはデパチカへ攻め込み、昼食アイテムをゲット計画。開店直後のデパートなので、売り場のお姉さんの「いらっしゃいませ」のかけ声+角度45度礼がもう何かのアートパフォーマンスのように、とーちゃんかーちゃん&息子に波の如く襲いかかる。銀座のデパート恐るべし。ピヨコもこんな光景を目にしたのは初体験なので、やや赤面しながら地下の食料品売り場へとチョコチョコ歩く足がもつれそうである。もう、ここから非日常は始まっており、そしてその興奮を引き連れたままで歌舞伎座へ。

こちらも千秋楽とあって、ものすごい人の波、また波。

お着物のおばさま方の列、また列。

またしてもピヨコは和毛を左右にフワフワさせながら人混みを避けながらも、ここは昔取った杵柄とばかり、目にも留らぬ速さで英語版イヤホンガイド3機をゲット。なかなかの身のこなしだぜ、ピヨコ。デントーゲーノーと聞くと、血圧が20〜30くらいアップして、日頃の低血圧からピヨコが解消されるという噂は本当らしい。動きが、身のこなしが、目つきが、いつもよりシャープなアイツ。スーパーピヨコに変身直前の有様。

ああ、さようなら、歌舞伎座

ピヨコはそっと、ぐっと、心の中で呟く。

ここで昔よく遊んだんだよなあ。っていっても、まだコピヨコだったあの頃は、3階席から身を乗り出して、花道のはじっこがちょぴっと見えるのが精一杯だったのだが。でも、あの時も顔は真っ白く、面白く、笑っていたよ。そして、今日も。とーちゃんかーちゃん&息子のために用意した席は椅子の座りやすさなども考慮して清水の舞台から飛び降りた一階。「とちり席」とはいかないが、花道の隅々まで一望できる。チャリ幕を引く音が、耳のすぐそばに。ああ、喜びでクラクラしそう。ピヨコはもうさっきから足をバタバタさせて、無意味にニヤニヤしている。

いいの? とーちゃんかーちゃん&息子の心配しなくて。

と、ちらりと横を見ると、どうやら心配の必要はないらしい。イヤホンガイドの助けを借りつつ、江戸の粋、傾いた歌舞伎のセクシーな美の世界に陶酔しているらしき3人の姿。いきなり海老蔵の『暫』だもんな。いや、もう陶酔しない方がおかしいくらいです。たまんない。ひゃあ、カッコいい。ギョロ目の藝も無事継承されている様子。ああ、胸がすっとする。キモチイイ。

5時間なんて、アっと言う間。とーちゃんかーちゃんの疲労度等を考慮しつつ途中で退席する予定だったのだが、かーちゃんのリクエストにより、最後の演目まで見ることに。既に文楽の洗礼を受けている3人はなんっつーか余裕の面持ち。もはや伝統芸能ツウのノリである。もちろんピヨコは大喜び。だってえ、芝居を最後まで見ないで帰るのって、サイテーにヤなんだもん。うぷぷ。

よかったな、ピヨコ。最後まで堪能できて。そして、よかった。3人も今や歌舞伎の虜。藝の力。いやあ、踊りの番組も、どれも素晴らしかった。人間国宝の重厚な藝はもちろん、若い菊之助の踊りがとっても良かった。るるる、るるる。こんなに人の心を華やがせてくれる芸能って。藝って...。ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ。これはもはや細胞レベルの恋である。歌舞伎ラブ。

...と、ピヨコの目には、涙すら浮かんでいたのである。その他3人の異国生まれの心にも、此の国の藝の花はしっかりと咲いたのである。カンドー。

カンドーを胸に歌舞伎座とさよならをした一行。もう残された観光時間は秒読み。どこへ行く。どこへ行きたい?

と、歌舞伎の後になんなんであるが、いきなりアキバへ直行。息子曰く「歌舞伎を見たら、日本文化というものがよくわかった」んだそうだ。「アニメは、アレだよ、アレ。あそこから来てる、間違いなし」って、「アレ」と言ってるのは、さっき見た『暫』の衣装身形。ほほん、確かにね。「コレコレ」と息子が指差す先にあるのはガンダムのフィギュア。確かに、『暫』とガンダムのカタチって似てるかも...。ほほん。

とーちゃんかーちゃんはメイドも無事確認して、アキバをぐるりと一周。冷蔵庫売り場などで「ちっちゃい」冷蔵庫などを見て興味深そう。確かにちっちゃくコンパクトである、日本の電化製品...。

と、ピースサインでポーズを取る、ピンクメイドの黄色い声を後にして、今夜の〆は新宿。新宿に事務所を構える建物研究家MM氏に教えてもらった、夜景の見えるレストランで食事。確かに、すごい。この夜景。「あの時計台みたいなのは何?」とかとーちゃんかーちゃんからいろいろと夜景に関して質問が出るのだが、悲しいかな今浦島とさえ呼ばれているピヨコは新宿に出現した新しい建物群が何だかなんて、本当はぜんぜん知らない。「ええっと、うーんと...。」地図も持ってないしなあ。おやおや、ガイド失格ですな、ピヨコさん。でもお、だってー、東京に住んでたのはあー、もうー、ずっと前でえ...。とか、言い訳を言うピヨコ。ま。しょうがないな。浦島さんなのに、ここまでよくがんばったよ。ネコトラベルやMM氏など、様々な人々のお陰でもあるのだが。感謝。感謝。とにかく無事にここまで旅ができて、よかった。感謝。感謝。あ、あそこのビルの影に、東京タワーが。キラリと今日も光っている。心地よい、宵。