荷物をまとめて

今夜はこの家での最後の夜。
さぞノスタルジックな気分に押し流されるのだろうかと予想していたら、
一日中荷造りに追われて、それどころではなかった。
いつも、こう。
準備ができてないおかげで、感慨にふける暇もない。
頭、真っ白。
住み慣れたいくつかの場所を離れた時にも、全部そうだった。
もしかしたら、無意識のうちに準備を引き延ばして、
別れの情の水脈が眼の中に流れ込んできたり、
胸の深いところを夕焼け色に滲ませたりして、
どうにもとどめなくなってしまわないようにする、という秘密の作戦の成果なのかもしれない。
とはいえ、昨日、一心不乱に箱詰め作業をしていたら、
ふと、
ほんの3分くらい、熱いものがのぼってきて、
ちょっと泣くのかなという感じにもなった。
それは、悲しいというのではぜんぜんなくて、
感謝だった。
たくさんの、言い尽くせない温かな出会いがこの街=Vではあって、
そんな美しい人たちに巡りあうことのできたことの幸福、
その全てへの感謝が、熱く柔らかくのぼってきた。