故郷N

久しぶりに故郷Nに出掛けた。
大花火大会で有名なN。
最近は映画『聯合艦隊指令長官 山本五十六』でほんのちょっとだけ注目されてるかもしれないN。
Nに降り立つと、雪が落ちてきた。
約束の喫茶店まで、足を濡らしながらゆく。
そうだった、冬のNの道からは水が出てるんだった。
雪を溶かすために、地下水を流しているのだ。
みぞれ状になった雪を含んだどでかい水たまりをいくつもジャンプで渡り、でも時々は「がんぎ」と呼ばれる昔からのアーケードに逃げ込んで、ああそうだった、この街では冬には雁木が人々を護ってくれるんだったと
ようやく思い出した。
再開発・シャッターの降りた商店街・最近できつつある市立の箱物。
まあ、何にもない街であるけれど、ここが私の故郷だ。
何にもないからこそ、頭の中に無限の空想のための宇宙が広がっていた街。その街が、どこか寂し気に佇んでいる。
もう一つ水たまりをクリアしながら、何かこの街に恩返しをせねばなあと、そういう気持ちになった。何もない、普通の日常の、そして時々の祭りの、楽しさ。春を待つ心の静かな時間。いいものがたくさん隠れているが、それはなぜか今、冬眠の最中らしい。またうきうきと芽吹く日を待ちながら。