存在の底の震えと笑い

湿って冷たい闇の中、映画館へ。
「え?」
「あ?」
「ひょーえ!」
久々に、度肝を抜かれるヘンな映画観た。

The Skin I Live In

The Skin I Live In

ペドロ・アルモドヴァルの新作。主役の一人、怪しい整形医はアントニオ・バンデラス。あんまりハマってるんで、最後まで誰か気づかなかったほどだよ。女優さんが、すごく可愛い。鍵のかかった部屋でヨガを静かにやってるこの囚われの美女の目をみはる可憐さ・美しさってのが、実はこの映画の重要ポイントなのだが・・・後は見てのお楽しみ。

時間軸の構成が笑っちゃうくらい大胆。「6年前」なんていうキャプションが出て、次に「その6ヵ月後」(だったかな)、そして「現在に戻る」という文字がデカデカと画面に出た時には客席からクスクス笑い声が。確かに「〜一年前〜」なんてのが出て過去を表現するのはよくあるけど、堂々と「現在に戻る!」っていう文字が出たの、見たことあったかな、なんか新鮮だった。

これ、一種のSFホラーで、怖いシーン、暴力シーンもかなり過激。でもなんか笑えるんだよな。ド真面目にやりながらも、どっかで映画という虚構を楽しんでいる。自分もどっぷりその中に溺れたりはしないで、カメラのこっち側でウインクしてる、この距離感がこの監督の魅力だな。

音楽がまたすごい。もう全編、色とりどりの音楽のタペストリーで覆い尽くされているような具合なのだけれど、それが説明的ではなくて、どのシーンの音楽も映像をおいしくするのに貢献している。ある種の感情を喚起する音遣いなのだけれど、絶対に「ありがち」な音には堕ちないところに感心した。

この映画のポスターを見て、勅使河原宏の『他人の顔』を思い出した。
変化球度ではこの二つの映画、なかなかいい勝負。
どちらも、聞こえない悲鳴の中で存在の闇の底がゾワゾワするタイプのホラー感を味わいたい人におすすめの映画。

勅使河原宏の世界 DVDコレクション

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