旅の後で。きのこ・愛

時差ぼけ。たぶん。
一晩中寝たのに、お昼頃までうとうとしていた。
思えば、アっと言う間に半月以上が過ぎて、また私はVの曇天の下にいる。

この間、日本に潜伏していた。
日本が大きく傷ついてから、はじめての上陸だった。
日本は、予想していたよりもずっと平和そうな外見をしていた。
でも、その奥の方に時々、えも言われぬ不安が覗いていた。
「きのこはヤバい」
と言う人がおり、秋の味覚であるきのこを私は賞味させてもらえなかった。風評であろうとなかろうと、みんなどこかでそんな不安を抱えていることだけは確かな事実なのである。

それでも、街は平和すぎるほどに平和に見えて、
祭りで踊ったり、買い物をしたり、お洒落をしている人が
いつもと同じようにそこにいて、
切り込み隊長みたいな意気込みで飛行機を降り立った私は、
拍子抜けしたのであった。

平和というのは、すばらしいことである。
ただ、今、この瞬間に、本当にこんなに平和であっていいのか、
私はなぜかやたらと不安になるのだ。

何か、みんなが必死に見ないようにしているものがそこにあって、
それが怖い。

ただ、そこに降り立ってみれば、
食べたり、寝たり、呼吸したり、
そういう毎日の中に埋もれていくしかないようでもあって、
私もいつしか平和風を装って、買い物やおしゃべりに勤しんだのだ。

そしてまた、私はその故郷を後にした。

きのこを食せなかった恨みは大きい。
私はきのこが大大大好きなのだ。
最後の大という字を巨大フォントのボールドで表現したいくらいに、好き。
いい加減にしたら? と言われても、
だめだ、私は平和のフリなんてできない。
きのこをすっきりと晴れた心で山盛り食すその日まで、
静かに、どこにいても、闘っている。